イサム・ノグチと「かたち」そのものへの旅。2005年11月20日 22時42分

息子を連れて、東京都現代美術館へ「イサム・ノグチ展」を見に行きました。事前に単独行で見てきた連れ合いが持ち帰った「こどものためのガイド」というパンフが面白かったので、これは子供にも良かろうと思って行ったのですが、大正解でした。まず、ガイド自体がうまく造形への関心を持たせるように書いてある。形そのものの面白さや、「見立て」の楽しさに触れながらノグチの代表作を紹介しています。展示自体もそのようにできていて、初期の作品から晩年まで、ノグチ自身の造形観がどのように変遷したかを丁寧に追います。ブランクーシの弟子時代の、形態を純化し研ぎ澄ますような造形から、形の要素を組み合わせてより全体を構想していく「ワークシート」の手法、そして自然や日本的な美意識への関心まで。途中、ノグチが実際に作品の試作に用いたワークシートを、子供たちが自由に組み合わせていろいろな形を作れるコーナーがあり、ここで子供たちは思い思いの形を作りながら「かたち」そのものの面白さ、楽しさを感じていたようです。これがあっただけでも展覧会は大成功じゃないでしょうか。ワークルームの棚には思い思いの「作品」が所狭しと並んでいて、とても微笑ましかったです。

また、通して見ていて面白かったのは、形への関心のかたちは色々と変遷しながらも、ノグチは最初から最後まで一貫して「ノグチ」だったように思えたことです。たとえば初期の作品に、滑らかで不規則な形に削った木片から太い曲がった針金が芽のように伸びているものがあるのですが、既にそこには単に形態を純化するだけでなく、形態に自然の摂理を見るような視線を感じます。晩年の大作「エナジー・ボイド」(エネルギーの虚空:何て本質的な命名!)には逆に、晩年の関心事の集大成だけでなく、形態を純化する志向が初期から晩年まで一貫して底流に流れていたことを匂わせます。「かたち」そのものへの飽くなき関心は、さまざまに形を変えつつ円弧を描き、また元の場所に戻ってひとつながりの輪を作ったのかもしれません。それこそ「エナジー・ボイド」のような。

そんなことを思いながらつらつら見たのですが、やはり息子的にはワークシートと「モエレ沼公園」の遊具が楽しかったようで、特に遊具「オクテトラ」では、方々の穴から出たり入ったり、登ったり降りたり、それは長い時間遊んでいましたとも。やっぱり子供は子供だねえ、と思いつつも、それだけ夢中にさせる遊具ってさすがだなあ、と思ったり。私はちょっと遠慮しましたが大人もたくさん出たり入ったりしてましたよ。

さて、ノグチ展を見終わって時間が余ったので、もう一つの特別展と常設展も見ました。で、息子に何が面白かった聞くと、結構「現代現代したもの」が面白かったりするのですね。これ、どうやら学校での図工の授業の影響もあるようで、私なんかが子供のころに比べると、何かに見立てて造形するとか、自由に面白い形を作ってみるなんてことをかなり色々やってるんですね。うらやましい…

途中でレストランに寄ったり、外庭を散歩してみたり、何だか「息子とデート」な一日で、親的にもとても満足でした。現代美術館ありがとう、遠いのでなかなか行けませんがまた良い企画を期待してます。

ちょっと補足。現代美術館は確かに鈴木都政が残した「大きすぎるハコもの」の一つではあろうと思いますが、少なくとも現在は非常に無駄なく使われていると個人的には思っていて、とても好きな場所です。もちろん、「ヘアリボンの少女」に50億だか積んだというのはさすがにぼったくられのように思いますが、実はそれ以外の常設コレクションの揃いの良さが特筆ものです。もう20年近くも前になりますが、学生の貧乏旅行で寄ったニューヨークのMOMAは、マチスやロスコのコレクションが素晴らしかったのですが、それすら現代美術館の選択眼には及ぶべくもないと感じるほどです。ポップアート、抽象絵画、コンセプチュアルアート、どれをとってもその面白さを十分に感じさせるラインアップ。かつ常設展はまず混まないので、ゆったり静かな気分で鑑賞できるのもお勧めポイントです。

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