レザナは花、競いつつ共に咲く新しい花。2005年11月23日 22時31分

フルーティスト金井さんが参加するトリオユニット(という表現はクラシックの分野では普通しませんが、金井さんに面白がられたので敢えて。)、"Les Hanas"(レザナ)の第1回コンサートに行って来ました。クラシックのコンサートで舞台に立っている人が一応知り合いだなんて不思議な気分ですが、会ってお話しするときと同じポジティブなオーラを放って金井さんはステージに立っていました。うわー、お三方ともすごくカッコいい舞台衣装です。つかみはOK! …やっぱり何かクラシックコンサートへの反応として間違ってる気がしますが、先へ行きましょう。

そもそも曲目からして非常に好みなコンサートだったので、あまり一般的に見て役立つ評にはなりそうにないのですが、とりあえず順に。ベルリオーズ「『キリストの幼時』から トリオ」。ヴィオラ、フルート、ハープの音の立ち上がりから消え入り方まで、一糸乱れぬ息の合い方で、典雅な空気を会場一杯に拡げます。期待感ふくらむ中、ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」。この編成のものを聴くのは初めてでしたが、これが良いのです。以前からこの曲、どうもオケ版はわさわさしたり、雰囲気に流れたりしすぎで魅力を感じず、かといってピアノ版は色彩的に平板という印象を持っていたのですが、このトリオ編成はどちらの問題も解決できている気がしました。前半ラストは、楽しみにしていたグバイドゥーリナ「喜びと悲しみの庭」。期待どおり、いやそれ以上に素晴らしかったです。長く緩やかなクライマックスのあとの沈黙、緊張感みなぎる力強いフルートのソロパッセージが続いたあと、改めて寄せて来るもう一つのクライマックスの波。チェロ協奏曲「いまだ祭は高らかに」を彷彿とさせるドラマチックな展開にやられました。あえて一つだけ言うと、作品中の詩の朗読が、まだ心持ち硬かったような気はします。皆さん発声よく朗々と通る声なので、低い声で凄んでみるとか、激しさを内に秘め抑えて語るなどの変化をつけても面白かったかもしれません。以前、高橋悠治「Insomnia(眠れない夜)」でクレーメルと吉野直子が行った朗読を聴いたとき、PAを使っていたからできた面はあるのですが、低く呟くように思索の断片を吐き出す感じが素晴らしかったので、このグバイドゥーリナ作品にそうした演出を施すのもよいかもしれません。

休憩をはさんで、後半1曲目は武満徹「そして、それが風であることを知った」。名の知れた作品ですが、私はこれが初めてでした。名匠オーレル・ニコレに捧げたというのですが、超絶技巧や特殊奏法らしきものはほとんど顔を出さず、たおやかで優しい息遣いが全体を支配します。なんだか、辞世の句を聞いているようなせつなさにおそわれました。ふと、武満のピアノ譜を1曲買って鳴らしてみよう、という長い懸案が目を覚ましました。ヤマハあたりには確か「遮られない休息」「リタニ」「ピアノ・ディスタンス」などが置かれていて、その難解な記譜法を見ながら、ただ演奏された結果の音を聴くだけでなく、楽譜で武満が何を語り、伝えようとしているかを自分で読み取ってみたいと思ったのでした。時間の余裕がないとなかなかできませんが、でもいつか必ず、と改めて思いました。そして最後の曲、ドビュッシーの「ソナタ」。これはドビュッシーの晩年作品で唯一未聴だったと思うのですが、弦楽四重奏曲やピアノのためのエチュードなどで見られる、硬質な枯淡の境地といった色彩だけではなく、「ペレアスとメリザンド」や「牧神の午後への前奏曲」に通じる、ある種牧歌的な移ろいが顔を出すのが印象的でした。これはフルートやハープという、やさしい音色を持つ楽器がそうさせた部分もあるんでしょうか。そしてそんな流れなのに終楽章は諧謔に満ちて「バチン!」と終わってしまう。やっぱりドビュッシーはヘンな人です、いい意味で!

アンコールは、フルートとハープのデュオでグリュックの「精霊の踊り」、ヴァイオリンとハープでマスネの「タイスの瞑想曲」、そしてトリオでイベールの「間奏曲」。いずれも持ち味発揮、しっとり/しっとり/軽快という構成も心地よくお開きとなりました。…期待して臨んだコンサートですが、期待以上の満足度です。これだけ色々と音楽の引き出しを開けてもらえたコンサートというのも、ここのところなかったかもしれません。「新しい花」の名にふさわしく、みごと花開いたのでは。さっそく次回に期待です。

ちょっと話が選曲に寄り過ぎたので、アンサンブルの味わいについて少しだけ。ベルリオーズのところでも書いたとおり、音の立ち上がり方、消え入り方が見事に揃っているので、複数の楽器の音の動きが一つの息遣いとなっている感じを覚えました。大編成のオケにはない小編成ならではの醍醐味ということもありますが、それに加えてお三方の、音楽の息づき方に対する妥協のない姿勢を見た気がします。よいものを見せていただきました。というわけで、くどいのですが、次回にも期待してます。

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_ ヤッコの世界 - 2005-12-06 16:15

コンサートが終わって早2週間が経ちました。 翻訳の締め切りをかかえていたり、残