充実の休日(1): 展覧会に行く。 ― 2006年05月30日 23時55分
以前スペイン旅行をしたときはまだ息子が小さくて、とても美術館など行けなかったので、この展覧会を見るのはその埋め合わせみたいな部分もあるのですが、息子がイヤホンガイドも要らないと言い、一人で上手に人混みをすり抜けて作品解説を熟読しながら鑑賞するさまにはしみじみと歳月を感じてしまいました。
それはさて置き。この展覧会、5つのパートに分かれていましたが、個人的に収穫だったのは第1部のスペイン黄金時代のバロック絵画。リバルタ、リベーラといった名前を知らなかった画家の素晴らしい作品に出会えたのが特によかったです。エル・グレコやベラスケスもいいのが来ていて、堪能しました。一方、ティツィアーノはあまり趣味ではないなあと思ったり、フランドル絵画やロココやゴヤ作品はあまりいいものが来てないなあと思ったり。そんな緩急はありましたが、トータルでは見応え十分の展覧会でした。
にしても、リバルタやリベーラの人物表現における繊細な光の扱い、陰影、何人かの画家によるボデゴン(静物画)の、デザイン的とも言える抽象化された構図の端正さ。圧倒的な美って素晴らしいです。こういうものに接すると、日々の些事なんかさて置き、もっと自分も美のために時間と労力を注ぎ込むべきなんじゃないか、と強く思います。…うーん、もっと音楽したいし、文字作品ももっと高いところを目指したいもんです。
展覧会を見終えて昼食は何か買って公園内で、と思ったんですがあまり食指の動くものがなく、足の向くまま街のほうへ下りていき、結局「伊豆栄」でうな重という思いがけない贅沢コースとなりました。地理に明るくない上野界隈で、唯一知っている「名店」がこの池之端の老舗だったのです。でも池を見下ろす明るい店内でいただく鰻は、甘さを抑えたたれの味がふっくらした身の風味を引き立てて、美味しゅうございました。
イサム・ノグチと「かたち」そのものへの旅。 ― 2005年11月20日 22時42分
また、通して見ていて面白かったのは、形への関心のかたちは色々と変遷しながらも、ノグチは最初から最後まで一貫して「ノグチ」だったように思えたことです。たとえば初期の作品に、滑らかで不規則な形に削った木片から太い曲がった針金が芽のように伸びているものがあるのですが、既にそこには単に形態を純化するだけでなく、形態に自然の摂理を見るような視線を感じます。晩年の大作「エナジー・ボイド」(エネルギーの虚空:何て本質的な命名!)には逆に、晩年の関心事の集大成だけでなく、形態を純化する志向が初期から晩年まで一貫して底流に流れていたことを匂わせます。「かたち」そのものへの飽くなき関心は、さまざまに形を変えつつ円弧を描き、また元の場所に戻ってひとつながりの輪を作ったのかもしれません。それこそ「エナジー・ボイド」のような。
そんなことを思いながらつらつら見たのですが、やはり息子的にはワークシートと「モエレ沼公園」の遊具が楽しかったようで、特に遊具「オクテトラ」では、方々の穴から出たり入ったり、登ったり降りたり、それは長い時間遊んでいましたとも。やっぱり子供は子供だねえ、と思いつつも、それだけ夢中にさせる遊具ってさすがだなあ、と思ったり。私はちょっと遠慮しましたが大人もたくさん出たり入ったりしてましたよ。
さて、ノグチ展を見終わって時間が余ったので、もう一つの特別展と常設展も見ました。で、息子に何が面白かった聞くと、結構「現代現代したもの」が面白かったりするのですね。これ、どうやら学校での図工の授業の影響もあるようで、私なんかが子供のころに比べると、何かに見立てて造形するとか、自由に面白い形を作ってみるなんてことをかなり色々やってるんですね。うらやましい…
途中でレストランに寄ったり、外庭を散歩してみたり、何だか「息子とデート」な一日で、親的にもとても満足でした。現代美術館ありがとう、遠いのでなかなか行けませんがまた良い企画を期待してます。
ちょっと補足。現代美術館は確かに鈴木都政が残した「大きすぎるハコもの」の一つではあろうと思いますが、少なくとも現在は非常に無駄なく使われていると個人的には思っていて、とても好きな場所です。もちろん、「ヘアリボンの少女」に50億だか積んだというのはさすがにぼったくられのように思いますが、実はそれ以外の常設コレクションの揃いの良さが特筆ものです。もう20年近くも前になりますが、学生の貧乏旅行で寄ったニューヨークのMOMAは、マチスやロスコのコレクションが素晴らしかったのですが、それすら現代美術館の選択眼には及ぶべくもないと感じるほどです。ポップアート、抽象絵画、コンセプチュアルアート、どれをとってもその面白さを十分に感じさせるラインアップ。かつ常設展はまず混まないので、ゆったり静かな気分で鑑賞できるのもお勧めポイントです。

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